土屋正忠(以下 土屋)
セカンドスクール」は、武蔵野市内の小学校5年生が最低1週間、長い場合は10日間、農山漁村で自然体験をするカリキュラムです。このパンフレットの写真は長野県の飯山市です。天然のブナ林に行って聴診器を当ててブナが水を吸い上げているところを聴いているのです。他にも田植え、稲刈り、牛乳搾り、地引網、イワナをつかみ取りして焼いて食べたりします。実際は自然のイワナは少ないので、あるところをせき止めてやるのですが、初めはやっぱりぬるぬるして気持ち悪いし大変です。でも、つかんで「えいっ」と頭をなぐってイワナに「ごめんね」と言って焼いて食べる、そういう体験をするのです。パックに入った一部分だけきれいになった魚をコンビニから買ってくるではないのです。
野菜も自分で収穫すると、本当の疑似体験になりますね。戸井田先生のように最初から全部自分で作る話ではないけれども、ある程度育ったものを採る、自分が苦労して採ってくると、野菜嫌いな子でも野菜を食べちゃうわけです。実施前には小学校5年生の父母も含めて準備会をしますが、必ず「うちの子は○○○アレルギーだ」と言う親がいます。さすがにそばアレルギーだけは気をつけなければならないが、それ以外のものはほとんど大丈夫です。アレルギーは難しいですし簡単には言えないが、ストレスによってそれが何かに反応して、例えばタンパクアレルギーになったりするのだと思います。 ところが「セカンドスクール」に行くとストレスから開放されるのですね。通常7泊8日、長いときは9泊10日行くわけですが、すると暑い、寒い、痛い、おなか空いた、といろいろな体験をします。最近は個室に寝ている子供が多いので民宿などに泊まらせますと、そこで6畳間や8畳間に皆で一緒に寝るのです。○○ちゃんのいびきがうるさくて眠れなかったなどと言う子もいますが、1〜2日経てば皆くたびれていびきどころじゃなくグーグー寝るし、しかも共同生活はどういうことに気をつけなければいけないのかを自然に覚えるわけです。だから道徳の時間に親切を教えるのではなくて「あっ、こんなことやったらまずい」とか「こうやって物が出来るのか」を自然に覚えるわけです。共同生活体験です。
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土 屋
「セカンドスクール」では、間食はさせません。一日3食しか食べられない。だからご飯がおいしい。今の子供は油過剰、タンパク過剰です。変な揚げたものばかり食べているでしょ。これはいったい何から出来ているか、をよく分からないまま食べている。間食はするし、いつもおなかいっぱいだから、ごはんだっておいしくない。「セカンドスクール」では戸外で遊んで、間食もなしだから、これはもう本当にご飯もおいしいわけです。 |
戸井田とおる(以下 戸井田)
今の子はファーストフードの味に慣らされていて、本当の野菜の味や米の味が分からなくなっている。以前に新聞のコラムに、福井県で国の施策で体験農業をさせようと小学校6年生に田植えから全部させた話が出ていました。間隔は飛び飛びになったけれども、田植えはした。学校の授業だから皆イヤイヤやっていた。ところが稲がどんどん伸びてきて、花が咲く頃になったら水害があって、稲が倒れてしまったのです。でもなんとかそれを起こしたり、手当てをしたら、稲の生命力で花を咲かせたわけです。秋の刈り入れの時、満足のいく量じゃないけども採れた。それでご飯を炊いて、指導してくれた人と一緒におにぎりを作って食べた。そんな体験をした後、子供たちは何が一番変わったか、先生に聴くと、一番変わったのはそれまではいくら残すな残すな言っても必ず残していた子が、黙っていても全部食べるようになったことだったそうです。
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土 屋
大事なことですね。 |
戸井田
自分たちで育てて、ましてや自分たちの主食であるお米を育てて、それが途中で立ち行かなくなったけれど米の生命力でまた起き上がって、満足いかない量だけど採れた。だからものに対する感謝の気持ちが自然に醸成されて、食べ物を残したくなくなる。「セカンドスクール」で自分がとってきた野菜は野菜嫌いの子でも全部食べてしまう、同じことですね |
土 屋
「セカンドスクール」では民宿の人たちが親切にしてくれます。子供たちにとっては初めての体験ですね、親から面倒見てもらうことを当たり前だと思っていますから。見ず知らずの民宿のお父さんお母さんから怒られたりする。また、熱なんか出したら夜も寝ないで看病してくれたりして、人の情けをかけてもらう。そうすると反応するのです。子供たちの感想文にそれがいっぱい書いてありますよ。感想文読むだけで目頭が熱くなる。
私はこれを武蔵野市でやってみせたから、全国でやらせたい。それは都市と農山村の交流にもなる。 |
戸井田
小学校1学年で100人なり150人なりいるわけですが、それを全部受け入れてくれる家庭や地域はあるのですか? |
土 屋
それは仕組み次第です。近代的な生活をさせようとしたら問題があります。受け入れるほうに、山の中で刺身を出してほしいと言うのはおかしい。だから、特別なものを出さなくていい、それよりも新鮮な野菜出してくれ、地の物を出してくれとお願いします。受け入れるほうが自然体になれるかどうかです。それを身構えてやっていたら続かない。 |
土 屋
実はね、親離れが大事なのです!(笑) |
戸井田
なるほど。今の子供には親の変な過保護があって、肝心なところで親離れが出来ない。 |
 土 屋
去年こんなことがありました。親が「セカンドスクール」実施中に乗り込んできたのです、しかも夫婦で。初めてのことでした。その親は「うちの子にはそんなことは出来ないはずだ」と言う。親と校長とみんなで話しても「校長先生がいるからこどもがイヤイヤやっているのだ」とその親は言うので、親子で話をしてもらったのです。そうしたら子供は「おかあさん、おとうさん、帰って!」と言った。さすがに親はすごすごと帰った。しかしこの親御さんは「セカンドスクール」が終わってから実施した現地へ行って、自分の子供がどこへ行ってどういう体験したのか、自分で追体験してきたらしいのです。その後はさすがに文句が来なかったけど、こんな親がいるのですよ。
2〜3年前にも、自分の子供には毎日ピアノを弾かせているので「セカンドスクール」には行かせないと言った親がいた。99.9%参加させないと言う。そこで教育長が、現地にアップライトのピアノがあるので、それを弾かせますからと説得したのです。実際に弾かせたら、他の子供が近くで遊んでいるのがうるさいって文句を言う。それではと他の子供たちを庭で遊ばせたら、今度は庭で遊んでいるのがうるさいって言う。結局翌日からピアノは弾かなかったね。(笑) |
戸井田
なるほど。今の子供には親の変な過保護があって、肝心なところで親離れが出来ない。 |
土 屋
そう、子供はピアノよりも、みんなと遊びたいのです。
また、「セカンドスクール」のいいところは夏休みの任意参加ではなく全員参加という点です。武蔵野市はアメリカ・テキサスに2週間程度、子供を行かせるプログラムを20年続けています。テキサスのダイナミックさを体験するので参加した子供はものすごく変わりますが、参加できるのはエリートだけです。20数万円を親が出せる子供しか行けない。でも子供は親を選べないのです。どの親の許に生まれてくるかは、運命ですからね。任意参加だと必ず恵まれた子供とか金のある家の子供しか来ないので、強制的に全員参加させるようにしたのです。義務教育は、国家が国民に対して保障する教育です。だから全員参加なのです。 |
戸井田
「セカンドスクール」と同趣旨のものを、本当に行政で実行していくのはスタートするときが大変でしょう。 |
土 屋
私はこれを実施するために方針を決めて昭和62年(1987年)からいろいろ準備し、本格的に実施したのは平成7年(1995年)です。市内の全小学校が3泊4日から7泊8日の期間で実施できるまで7〜8年かかったことになります。4年以上ですから市長の任期を越えているのですが、教育長を選んで教育委員会に考えさせて、校長や教頭も入れて、皆で問題提議したのです。このようなことは市長の命令ではできません。一番彼らが心配したのは、教育上の問題や都や国がどう見るかという問題と、お金の問題です。10年がかりでようやく定着したけれども、そこまでできない市長がたくさんいるわけです。 |
戸井田
中途半端な姿勢での取り組みは結局だめです。 |
土 屋
幸いなことに、ここに一つの成功事例があるわけだから、これを国の教育の枠組み等にオーソライズして、ある程度金を出してやればどこでもできますよ。これは日本国の構造改革です。 |
戸井田
地域の交流にもなるし、子供への影響も大きいですね。 |
《 第4回につづく 》 |
『最近気になるあの人ってどんな人?』や『あの人の考えを聞いて欲しい』など、皆さんの声をもとに戸井田が多くの方々と対談し、お伝えしていきたいと思います。どうぞ、お気軽にご意見・ご要望をお聞かせ下さい。
多くの考え方や想いを持つ方々と、しっかりと率直に語り合います。